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魚が顔の模様の違いで他個体を識別することを世界で初めて実証

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>

◆11/26 NHK「おはよう日本」(全国版)?「おはよう関西」、
     MBS「関西のニュース???VOICE?、朝日放送「キャスト」、
     大阪日日新聞、朝日新聞(夕)、毎日新聞(夕)、産経WEST、共同通信
     マイナビニュース、時事通信、ガジェット通信、Yahoo!ニュース
151126-5.JPG◆11/27 TBS「ひるおび」、
     文化放送「くにまるJAPAN」、
     読売新聞
◆11/28 IRORIO
◆11/30 JCASTヘルスケア
◆12/3 日経電子版
◆12/4 大学受験パスナビ
◆12/9 あなたの健康百科
◆12/10 動く図鑑MOVE

その他、地方紙等多数掲載?

概要

 理学研究科の幸田正典教授のグループは、魚が顔の模様の違いで他個体を識別することを世界で初めて実証しました。
 顔で互いを識別するのはヒト、チンパンジーをはじめ、霊長類や群生活をする哺乳類、鳥類ではカラス類などで知られていました。今回の発見はこれまでの常識を大きく覆す発見といえます。
 本内容は2015年11月26日午前4時(日本時間)に、米国の科学専門雑誌PLOS ONEのオンライン版に掲載されました。

【雑誌名】
 PLOS ONE
【論文名】
 Facial recognition in a group-living cichlid fish
【著 者】
 Masanori Kohda, Lyndon Alexander Jordan, Takashi Hotta, Naoya Kosaka,
 Kenji Karino,Hirokazu Tanaka, Masami Taniyama & Tomohiro Takeyama
【掲載URL】
 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0142552

本研究の概略

 視覚で相手を見分ける場合、ヒトをはじめ霊長類や社会性哺乳類、鳥類ではカラスなどが顔に基づいて相手を識別することが知られています。魚類にも相手を視覚で識別している種類がいるのですが、相手のどこを見て識別するのかは全く分かっていませんでした。タンガニイカ湖のカワスズメの一種「プルチャー」は相手を視覚で識別します。本研究では、この魚がどこを見て相手を識別するのかを調べました。
 本種は「顔」に明瞭な色彩模様があり、その模様が個体により微妙に異なります(図1)。そこで「本種は顔を見て相手を識別する」との仮説を立て検証実験を行いました。縄張りをもつ本種は、隣の顔見知り(隣人)には寛容ですが、知らない相手(他人)には非常に攻撃的です。モニター画面上の隣人と他人のモデルの画像を水槽越しに見せたところ、実験個体は隣人モデルをあまり警戒しませんが、他人モデルには長時間警戒しました。このことからモニター画像でも隣人と他人を区別できることが分かります。
 次に、隣人の顔の画像を他人の全身画像に貼った画像モデル(隣人顔?他人体)と、他人の顔を隣人の体に貼ったモデル(他人顔?隣人体)を作成し、水槽越しに見せました(図2)。もし顔で個体識別をするならば、隣人顔のモデルには隣人モデル同様に警戒時間は短く、他人顔のモデルには他人同様に長く警戒すると予測されます。結果はまさに予想通りとなりました(図3)。このことは、本種が相手の顔の模様の違いを見分け個体識別することを示しています。さらに関連観察から、この峻別はおよそ0.5秒で可能なことも分かりました。これらの結果から、本種の顔認識能力はヒトにも劣らぬものであると言えます。

【図1】 プルチャー4個体の顔の色彩模様
 模様が個体ごとに微妙に異なることが分かる。
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【図2】モデル魚の作り方
 隣人顔と他人の体でモデル(2)を、他人顔と隣人の体でモデル(4)を合成する。
      151126-2.png

【図3】実験結果
 隣人と他人のモデルは見分けている。
 さらに顔模様に基づいて隣人か他人かを区別していることがわかる。
    151126-3.png

 高い社会性(同じ個体が何度も出会う)を持ち、個体識別をすると思われる他種魚を調べると(シクリッド類、サンゴ礁魚のスズメダイ科、ベラ科など)、彼らの顔には個体ごとに独特の模様が見られました(図4a、c)。一方、大きな群れで暮らすなど、社会性が低く(同じ個体が繰り返し出会わない)、個体識別の必要がないと考えられる種類には、顔模様が見られません(図4b)。これらも世界で初めての発見です。この発見は、視覚で個体識別する魚種の多くは顔の模様で識別していることを示唆しています。

【図4】スズメダイ類の写真

 151126-4.jpg

本研究の波及効果

 ヒトをはじめとする社会性哺乳類は、顔の映像は他の映像に比べて正確かつ瞬時に認識できます。それには「顔神経」と呼ばれる顔認識に特化した神経や脳の特定領域が関与していると考えられています。プルチャーの細かな顔模様の認識の正確さと速さを考えると、魚にも顔神経のような神経系が存在する可能性があります。顔神経による認識には、ヒトも動物も上下逆さにした顔写真は、識別精度や速度が落ちることが知られています。現在我々の研究室はプルチャーでもこの現象が起こるのか実験しています。
 最近の脳神経科学は脊椎動物(魚類、鳥類、哺乳類)の脳の内部器官は基本的に同じ(相同)であると教えています。我々の実験結果は、哺乳類などの顔認識研究にも大きな影響を与えるかもしれません。

本研究について

本研究は下記の資金援助を得て実施されました。
◆科研費『脊椎動物の社会進化モデルとしてのカワスズメ科魚類の社会構造と行動基盤の解明』
◆科研費『魚類の共感能力と関連認知能力の解明およびそこから見える脊椎動物の共感性の系統発生』
◆科研費『脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から』


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