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高精度量子化学計算の新手法!量子コンピュータで原子?分子の全エネルギーを計算する新しい手法を提案!

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆11/16 マイナビニュース

本研究のポイント

?◇ 量子コンピュータを用いれば、精密な量子化学計算を分子サイズに対して従来のコンピュータよりも指数関数的に少ない計算ステップで実行できることが理論的に示されている。
◇ 量子コンピュータでの精密量子化学計算手法である量子位相推定は、量子ゲートの並列処理がしにくい、隣り合わない2量子ビットにかかる量子ゲートが多いなどの問題を抱えている。
◇ 先行開発した量子位相差推定アルゴリズムを応用し、従来法よりも量子コンピュータ実機に実装しやすい新規量子化学計算量子アルゴリズムを開発。

概要

? 大阪市立大学大学院 理学研究科の杉﨑 研司(すぎさき けんじ)特任講師、佐藤 和信(さとう かずのぶ)教授、工位 武治(たくい たけじ)名誉教授らの研究チームは、原子?分子の全エネルギーを計算する新規量子アルゴリズムを開発しました。今回開発した量子アルゴリズムは従来法よりも量子ゲートの並列実行性に優れ、量子コンピュータ実機への実装が格段に容易になることが期待されます。
 本研究成果は、国際学術誌『The Journal of Physical Chemistry Letters』に2021年11月8日にオンライン掲載されました。

本研究のポイント

雑誌名:The Journal of Physical Chemistry Letters
論文名:Quantum Algorithm for Full Configuration Interaction Calculations without Controlled Time Evolutions
著 者:Kenji Sugisaki, Chikako Sakai, Kazuo Toyota, Kazunobu Sato, Daisuke Shiomi, and Takeji Takui
掲載URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.1c03214 

研究者からのコメント

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杉﨑 研司 特任講師

精密な量子化学計算を量子コンピュータ実機で実行するためには複数の解決すべき課題がありますが、今回開発した手法はそのような課題の1つを解決するものといえます。今後、高精度化学計算のための量子アルゴリズムの量子コンピュータへの実装を格段に容易にするものです。 

1.研究背景

 近年、暗号に利用する桁数の大きな数の素因数分解のように、スパコンなどのコンピュータでは問題とする系のサイズに対して指数関数的に計算時間が増えてしまう特定の課題を、サイズに対して計算時間が指数関数的に増えることなく、多項式時間内で解くことができる量子コンピュータの研究が活発に行われています。そのなかでも原子?分子のシュレーディンガー方程式※1を近似的に解き、電子状態を明らかにする量子化学計算は量子コンピュータの近い将来の計算ターゲットとして注目されています。
 全配置間相互作用法※2(full configuration interaction; full-CI法)と呼ばれる精密な量子化学計算は従来のコンピュータでは分子サイズに対して指数関数的に計算コストが増大しますが、量子コンピュータでは量子位相推定※3という量子アルゴリズムを用いることで、分子サイズに対して多項式時間内で計算可能となり、計算ステップ数を分子サイズに対して指数関数的に削減できることが理論的に示されています。量子コンピュータ上で量子アルゴリズムを実行するには、基本的な量子ゲートを組み合わせて量子論理回路を構築する必要がありますが、量子位相推定のための量子論理回路は① 量子ゲート数が多すぎる ② 量子ゲートの並列処理が難しい、という2つの課題を抱えており、量子コンピュータ実機への実装が困難です。これらの課題の解決には量子コンピューティングデバイスの発展が重要なことは言うまでもありませんが、量子ゲートの並列処理が容易な新規量子アルゴリズムの開発もソフト面からの重要な研究テーマとして挙げることができます。

2.研究内容

 量子コンピュータによるfull-CI計算に用いられる量子位相推定アルゴリズムは、波動関数|Ψ?を時間発展させると、全エネルギーに依存した速さで波動関数の位相が変化する事象を利用した量子アルゴリズムです。従来の量子位相推定では、① (|0?|Ψ?+|1?|Ψ?)?√2という量子重ね合わせ状態を準備し、② 1つめの量子ビットが|1?状態のときのみ波動関数|Ψ?を時間発展させるような制御–時間発展演算子を作用させます。これにより、|0?状態には時間発展前の位相が、|1?状態には時間発展後の位相がかかった量子状態を作り出すことができ、その位相差を決定することで全エネルギーを計算します。しかし手順②に含まれる、1つめの量子ビットが|1?状態のときのみ波動関数|Ψ?を時間発展させるような演算は量子ゲートの並列処理がしにくいという欠点があります。1つめの量子ビットが|0?状態か|1?状態かにかかわらず時間発展演算子を作用させるような形に量子論理回路を書き換えることができれば、量子ゲートの並列処理が格段に容易になり、量子コンピュータ実機への実装も容易になることが期待できます。
 同研究グループは以前に、原子?分子の任意のエネルギー差を直接計算できる「量子位相差推定」アルゴリズムを提案しています。量子位相差推定アルゴリズムは、上記手順②に示した制御–時間発展演算子が不要なため量子ゲートの並列処理に向いているという特徴があります。今回、同研究グループは量子位相差推定アルゴリズムを応用し、電子が0個の状態(真空状態)の波動関数|vac?と求めたい電子状態の波動関数|Ψ?の量子重ね合わせ状態(|0?|vac?+|1?|Ψ?))?√2を利用することで、制御–時間発展演算子を使わずに原子?分子のfull-CI計算を実行できることを初めて示しました(図)。

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図:従来法である量子位相推定アルゴリズムによる全エネルギー計算手法と本研究で開発した量子位相差推定アルゴリズムを用いた全エネルギー計算手法

3.今後の展開と応用について

 今回開発した量子位相差推定による全エネルギー計算手法は量子ゲートの並列処理がしやすくなるだけでなく、物理的に隣り合わない2つの量子ビットに作用する2量子ビットゲートの数も劇的に減らすことができ、従来法よりも量子