最新の研究成果

ナノサイズの孔の中で分子が整列する様子をリアルタイムで観察することに成功

2022年5月16日

  • 工学研究科
  • プレスリリース

ポイント

 ◎多孔質材料に分子が詰まっていく様子をリアルタイムで観察することに成功

 ◎孔の中のような狭い空間で分子が整列する効果(オイルサーディン缶効果)を初めて実証

 ◎環境有害物質の効率的な除去や触媒材料の開発に大いに貢献する可能性

概要

大阪府立大学大学院 工学研究科の真下 理彩大学院生(博士前期課程2年生)、大阪公立大学大学院 工学研究科の岡田 健司准教授、深津 亜里紗助教、Bettina Baumgartner研究員、髙橋 雅英教授らのグループは、多孔質材料に分子が詰まっていく様子をリアルタイムで観察することに成功しました。press_220516

ナノからメソサイズ(1 nm?50 nm程度)の孔を大量に有する「多孔質材料」は、単位質量あたりの表面積が大きいことから、循環型社会を実現するキーとして環境有害物質(揮発性有機化合物※1(VOC)やCO2などのガス)の除去や材料合成時の触媒として利用されており、原発事故における放射性物質除去でも活躍したことで広く知られています。多孔質材料の中でも、金属有機構造体は、サイズのそろったナノ孔が規則正しく整列しており、表面積も非常に大きい(1 gでサッカーグラウンド程度の表面積を示すものもある)ため、次世代の多孔質材料として注目されています。これまでの研究で、多孔質材料の小さな孔に特定の分子が捕獲できることは広く知られていましたが、分子が孔に入っていく様子や孔の中での配置については、放射光施設を用いた大規模実験を行わなければならず、実験的に解析することが非常に困難であり、高効率な分離?触媒多孔質材料の実現の課題となっていました。

そこで本研究グループは、汎用型の赤外分光装置に、三次元プリンターで作製した簡易なアタッチメントを実装した装置を用いて、金属有機構造体※2中に分子が入っていく様子と孔の中での分子の向きや場所を、リアルタイムで精密に検出することに成功しました。その結果、狭い孔の中に分子を詰めていくと、いわゆる「オイルサーディン缶効果:イワシの缶詰の中でイワシが整列するように、分子が向きをそろえて規則正しく並ぶことでナノ空間を有効に利用する効果」を実証しました(上図)。本研究成果により、ナノサイズの孔の中に分子が規則正しく並びながら詰まっていく様子が明らかになり、ハウスダストや大気汚染の原因となる有害物質のみをターゲットとした選択的除去や優れた触媒の開発に大いに貢献することが期待されます。

本研究成果は、2022年5月16日14時(日本時間)に国際学術誌『Angewandte Chemie International Edition』(IF=15.336)に掲載されました。

<用語解説>
 ※1 揮発性有機化合物
   常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称であり、トルエン、ベンゼン、フロン類、ジクロロメタン等を指す。
   Volatile Organic Compounds(略称VOC)
 ※2 金属有機構造体
   有機配位子と金属クラスターの間で錯体形成を行うことにより、金属原子が互いに有機部位で架橋された構造を有する
   周期性の高いミクロ多孔性の結晶性化合物である。Metal Organic Framework (略称MOF)

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         真下 理彩大学院生

分子サイズの孔に「どのように分子が入っていき」、「どのように整列していくのか」を明らかにしたこの研究成果は、多孔質材料を研究しているすべての学生?研究者にとって関心が高いと思います。私自身、初めてこの現象を捉えたときは興奮して鳥肌が立ちました。この手法をベースにSDGs達成に貢献する高性能な多孔質材料の開発が期待されます! 



資金情報

本研究は、科研費(基盤研究A「金属有機構造体による配向薄膜の基礎学理の確立と応用開拓」課題番号 : 20H00401)、JSTさきがけ研究(「熱輸送のスペクトル学的理解と機能的制御」領域、「結晶性ナノ多孔質材料を用いた熱輸送の理解と能動的制御」課題番号:JPMJPR19I3,)、JSPS外国人特別研究員(課題番号:PE20025)、泉科学技術振興財団 研究助成、北海道大学触媒科学研究所 共同利用?共同研究事業からの助成を受けて行われました。

参考

〇実験の説明動画を以下URLで紹介しています。
 https://youtu.be/wfzlVMDfGMM     

〇2021年6月18日発表(大阪府立大学プレスリリース)
 「迅速かつ安価に構造を決定する手法を実現!偏光赤外光×アクセサリで結晶中の分子や化学結合の向きを解明!
  ―有機デバイスの開発加速や夢の高集積デバイスの実現へ期待―」
 https://www.osakafu-u.ac.jp/press-release/pr20210618/  

掲載紙情報

発表雑誌: Angewandte Chemie International Edition(IF=15.336)
論 文 名: Guest Alignment and Defect Formation during Pore Filling in Metal–Organic Framework Films
著     者: Bettina Baumgartner, Risa Mashita, Arisa Fukatsu, Kenji Okada, Masahide Takahashi
論文URL: https://doi.org/10.1002/anie.202201725 


プレスリリース全文 (740KB)


研究内容に関する問い合わせ先

大阪公立大学大学院 工学研究科
教授 高橋 雅英
TEL  :072-254-9309
MAIL:masa[at]omu.ac.jp [at]の部分を@に変更してください。

報道に関する問い合わせ先

大阪公立大学広報課
担当  :長谷川
TEL  :06-6605-3411
MAIL:koho-upco[at]list.osaka-cu.ac.jp [at]の部分を@に変更してください。

該当するSDGs

  • SDGs07
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